シャノンの悪魔
クロード・シャノン(1916-2001)は情報理論の父と呼ばれたアメリカの科学者、数学者で今日のコンピュータ技術の基礎を作り上げた一人として知られています。
デジタルサンプリングするときのナイキスト・シャノンのサンプリング定理でも名高いです。
もっとも、日本の染谷博士もサンプリング定理を証明したのでシャノン・染谷の定理と呼ぶべきともいわれています。
シャノンは熱心な投資家としても有名で、「天才数学者はこう儲ける」によれば、
「シャノンはMITでの講演で、ランダムウォークから稼ぎを得る方法を説明した。聴衆に向かって、価格が無作為に上下していて、
上昇傾向も下落傾向も見られない株を考えるように求めた。資金のうち半分を株勘定に、残り半分を「現金」勘定に置く。
毎日、その株の価格は変化する。毎日正午に、ポートフォリオを「調整」する。つまり、ポートフォリオ全体(株勘定と現金勘定)が、今、どれだけの値段かを計算して、株と現金とが元の五分五分の割合を回復するように、資産を株から現金へ移したり、その逆をしたりする。」
わかりやすくしよう。最初の資金が1000ドルなら、500ドルは株、500ドルは現金にする。初日に株価が半分になったとする(相当値動きが激しい株だ)
。これによって、株が250ドル、現金が500ドルのポートフォリオになる。これは現金側に傾いた配分だ。そこで、現金から125ドルを取って、株を買うことによって、
釣り合いを回復する。すると改めて株に375ドル、現金に375ドルという釣り合いの取れた配分となる。
これを繰り返そう。翌日、例えば株価が二倍になったとする。375ドルの株は750ドルになり、現金勘定が375ドルあるので、合計1125ドルだ。
今度は株の一部を売り、株も現金も562.50ドルずつにする。
ここまでシャノンの方式が挙げた成果を見てみよう。株はいったんがくっと下がった後、元の値段に戻った。買ったまま保持している投資家は
利益は全くでない。シャノン式の投資家は、125ドルを稼いでいる。
(天才数学者はこう儲ける ウイリアムパウンドストーン著、252ページ、松浦俊輔訳)
ここで紹介している方法は「シャノンの悪魔」と呼ばれていますが、まとめると次のようなものです。
最初の資金が1,000ドルとして、
- 500ドルを株、500ドルを現金とする。
- 株価が半分になったとき、株は250ドル、現金は500ドルとなる。
そこで、現金から125ドルを取って株を買い、株と現金の釣り合いを回復させる。
その結果、株に375ドル、現金に375ドルと、同額で計750ドルになる。
- 株が二倍になったら、375ドルの株は750ドルになり、現金は375ドルとなって釣り合いが取れない。
そこで、株の一部を売り、株も現金も同額の562.50ドルずつにする。合計1125ドルになる。
結果として、元の資金から125ドル増えている。
この結果、株は一旦下がった後、元の値段に戻っているので、株だけを保有していた投資家には利益は全くありません。
しかしシャノン式の投資家は125ドル稼いでいることになります。
シャノンは講演が終わってからの質疑応答で、この方法を実際に使って投資したことがあるかどうかを聞かれて「ない」と答え、
その理由として「手数料でダメになるだろう」と価格変動の激しい株を対象とするので取引回数が膨大になることをあげました。
先ほどの著者によれば、
「シャノンの方法はリターンの幾何平均が0になる株を仮定している。
この方式は今では「一定比率再配分ポートフォリオ」と呼ばれており、一定の前提に立てば最適ポートフォリオになる」とのことです。