ダランベール(1)

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ジャン・ル・ロン・ダランベールが開発したと言われる手法です。ダランベールは、「ダランベールの原理」で名高いフランスの物理学者で、 力と運動の式であるニュートンの運動方程式を、静力学と同様の力の釣合の問題としてとらえなおした功績で知られています。 これは大学の力学のテキストや授業には必ず登場する力学の原理です。 ダランベールの方法というのは、負けた場合に倍賭けするマーチンゲールとは異なり、次回は1だけ増やすのです。 マーチンゲールの場合、次回に勝てばそれまでの全ての負けを取り返せますが、ダランベールでは一度の勝ちでは取り返せません。 そのかわり、負け方、勝ち方もより緩やかなものになります。 またダランベール法の説明としては、勝った場合に逆に1増やし、負けた場合には1減らすとする場合もあります。 それではこのダランベールの期待値はいくらでしょうか。また、何度も賭けを続けた場合の傾向はどうなるのでしょうか。


はじめに、ダランベールではなくて、毎回1ずつ(一定額ずつ)賭ける場合を見てみましょう。 勝つ確率がpである賭けをn回したとき、k回勝つ確率P[X=k]は

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となることが知られています。ここでnCkはn個の中からk個を選ぶ組み合わせの数で

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です。このような確率分布を二項分布といい、nCkを二項係数と呼びます。 二項係数は(p+q)のべき乗(p+q)nを展開したときの、pkqn-kの係数です。 qを負ける確率q=1-pとすれば上記の二項分布の式となります。 これはkを確率変数としたものです。つぎに、損益m(勝った回数-負けた回数)を確率変数とすると、m=k-(n-k)=2k-nなので、 p=1/2のときP[X=m]は次のようになります。

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mは、-nからnまで一つ置きの値を取り、nとmはともに偶数か、ともに奇数です。このイメージは下図のようにボールが勝ち負けによって 1目盛ずつ左右どちらかに移動するモデルで考えるとわかりやすいでしょう。ボールはスタート時点では原点0にあり、 賭けに勝つと+1、負けると-1ずつ線上の目盛を動くとします。勝つ確率は1/2ですから、左右どちらに動くかは五分五分で、 ボールは一回ごとにランダムに左右に動きます。ボールの位置は、勝ち負けの差、つまりその時点までの損益mを表すことになります。 またそれぞれのmの値にはそれが起こり得る確率が対応しています。

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例としてn=3の場合を見てみましょう。一回一回の賭けではボールは1目盛ずつ右か左に動くのですが、 3回終了時には図4.2の黒丸の位置のいずれかにしか来ることができません。

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つまり、損益mの取りうる値は-3、-1、1、3のどれかで、 起こりうる確率はそれぞれ1/8、3/8、3/8、1/8です。期待値 <E>は

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となって0であることがわかります。なお、nが幾らであっても0点を境にして対称の関係にあるので、期待値は常に0です。 つまり、何回賭けをしても勝つ確率も負ける確率も1/2なので、平均的に見ると損も得もしないということになります。
その一方で、損益mの二乗の期待値をとると、

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平方根を取ると

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となります。賭けの回数がn回のときの値は

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です。つまり、賭けを続けていくと損益の期待値(平均値)は0のままですが、損益の自乗の期待値の平方根は次第に0から離れて行き、 その距離はおおよそ、equation1-1 となるということです。例えば、多数の人が勝つ確率が1/2の賭けをしていたとします。勝っている人、負けている人、 またプラスマイナス0くらいの人もいるでしょうが、各人の損益を平均すると0です。
一方、ゲームが進むにつれて、勝ち続けて大きく利益を上げる人、 反対に大きく負ける人も出てきて、同じ資金からスタートした各自の成績は、相対的には損益0付近の人が多いものの、次第にばらついて行きます。 回数nが多くなるほど、このばらつきが大きくなり、損益の二乗を平均して平方根を取るとnが4のときは2、100のときは10というように equation1-1で増えていくというのです。
このような性質は、物理現象ではブラウン運動あるいは熱や物質の拡散現象を説明するのによく出てきます。 そしてそれらが空間的に拡散するときの分布は左右対称の正規分布となり、時間の経過とともにすそ野が広がっていきます。 これは上記のように賭けの回数が増えるほど損益の分布がばらついてくるのと同じです。

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